水素ジェットエンジンとは
水素ジェットエンジンとは、水素を燃料として使用するジェットエンジンです。水素は、化学式H2で表される、最も軽い元素です。燃焼時に二酸化炭素を排出しないことから、環境に優しい次世代の航空機動力源として期待されています。
水素ジェットエンジンの仕組み
水素ジェットエンジンは、従来のジェットエンジンと基本的な仕組みは同じです。空気を取り込み、圧縮して燃焼室に送り、水素と酸素を燃焼させます。燃焼したガスは膨張してタービンを回転させ、その回転力でプロペラまたはファンを回して推力を得ます。
水素ジェットエンジンの特徴は、水素の燃焼特性に起因するものです。水素は、従来のジェット燃料であるケロシンやジェットA-1と比較して、以下の特徴があります。
- エネルギー密度が高い
- 燃焼温度が高い
- 発熱量が高い
これらの特徴により、水素ジェットエンジンは、以下のようなメリットがあります。
- 推力重量比が高い
- 熱効率が高い
- 排出ガスが少ない
水素ジェットエンジンの課題
水素ジェットエンジンの開発には、いくつかの課題があります。
- 水素の燃焼安定性
- 水素の低温流動特性
- 水素の貯蔵・供給技術
水素は、従来のジェット燃料と比較して、燃焼安定性が低いという課題があります。水素は、空気よりも軽いため、燃焼室内で上昇しやすく、燃えにくいという特徴があります。そのため、水素ジェットエンジンでは、燃焼安定性を高めるための技術開発が必要です。
水素は、液体化すると非常に低温になります。液体水素の温度は-253℃であり、この温度では、水素の流動性が低下し、ポンプやノズルの性能に影響を与える可能性があります。そのため、水素の低温流動特性を改善するための技術開発が必要です。
水素は、従来のジェット燃料と比較して、エネルギー密度が低いという課題もあります。そのため、水素ジェットエンジンを搭載した航空機では、従来の航空機よりも多くの水素を搭載する必要があります。そのため、水素の貯蔵・供給技術の開発が必要です。
水素ジェットエンジンの開発動向
世界各国で、水素ジェットエンジンの開発が進められています。
日本では、航空機メーカーのボーイング、エアバス、航空エンジンメーカーのGE、ロールス・ロイスなど、多くの企業が水素ジェットエンジンの開発に取り組んでいます。
アメリカでは、NASAが、水素ジェットエンジンを搭載した飛行機の開発を進めています。2022年には、水素ジェットエンジンを搭載した小型飛行機の試験飛行に成功しました。
欧州では、欧州航空宇宙機構（ESA）が、水素ジェットエンジンを搭載した飛行機の開発を進めています。2023年には、水素ジェットエンジンを搭載した無人機の試験飛行を実施する予定です。
水素ジェットエンジンの未来
水素ジェットエンジンは、まだ開発途上にある技術ですが、将来的には、航空業界の脱炭素化に貢献する可能性を秘めています。
水素ジェットエンジンの課題が解決されれば、従来のジェットエンジンに比べて、推力重量比や熱効率が向上し、環境性能が向上する可能性があります。また、水素は、再生可能エネルギーからの電力で製造することも可能であるため、カーボンニュートラルな航空機の実現につながる可能性があります。
水素ジェットエンジンの開発は、今後も世界各国で進められることが予想されます。
日本の水素ジェットエンジンの開発状況は、世界トップクラスです。
日本では、政府が「水素・燃料電池戦略」において、水素航空機の実現を目標に掲げ、研究開発を支援しています。また、航空機メーカーのボーイング、エアバス、航空エンジンメーカーのGE、ロールス・ロイスなど、多くの企業が日本国内に拠点を置き、水素ジェットエンジンの開発に取り組んでいます。
具体的には、以下の企業が水素ジェットエンジンの開発に取り組んでいます。
- JAXA：水素燃焼器や液体水素タンク、水素供給システムなどの要素技術の開発を進めています。
- 川崎重工業：水素燃焼器や液体水素タンク、水素供給システムの開発を進めています。また、水素航空機の機体構想の研究も進めています。
- 三菱重工業：水素燃焼器や液体水素タンク、水素供給システムの開発を進めています。
- 石川島播磨重工業：水素燃焼器や液体水素タンク、水素供給システムの開発を進めています。
- 三菱重工長崎造船所：水素航空機の機体構想の研究を進めています。
- トヨタ自動車：水素航空機の機体構想の研究を進めています。
日本では、2025年度までに水素ジェットエンジンの技術実証を実施することを目指しています。また、2035年度までに水素航空機の商用化を目指しています。
水素ジェットエンジンの開発は、まだ課題が残されていますが、日本は世界をリードする開発を進めており、将来的には、水素航空機の実現が期待されます。
