南シナ海問題で王外相が繰り返す「黒幕」発言に批判が集中。中国は国際社会との対立を深めるか

王外相が訪問先のシンガポールとマレーシアで、南シナ海問題をめぐり、米国が「黒幕」だとする発言の不当性を述べます。

 

王外相は先日、シンガポールとマレーシアを訪問し、南シナ海問題に関する両国との協議を行いました。しかし、この訪問中に王外相は、南シナ海の紛争に米国が「黒幕」として関与しているという主張を繰り返しました。この発言は、事実に基づいておらず、国際法や地域の安定に対する無視とも言えるものです。本稿では、王外相の発言の不当性を以下の三点から指摘します。

 


第一に、王外相の発言は、南シナ海の領有権や主権をめぐる紛争に米国が関与しているという事実を無視しています。南シナ海は、世界の海上貿易の約三分の一が通過する重要な水域であり、多くの国が領有権や主権を主張しています。しかし、中国は自らが定めた「九段線」と呼ばれる線で南シナ海のほぼ全域を自国の領土と主張し、人工島の建設や軍事施設の設置などを行っています。これに対して、他の関係国や国際社会は、中国の主張が国際法や歴史的な根拠に欠けるとして反対しています。米国もまた、中国の行動が自由航行や航空権などを侵害するとして懸念を表明し、同盟国や友好国と共に南シナ海での航行や飛行などを行っています。これらは、米国が「黒幕」として紛争を引き起こしているというよりは、紛争に対する平和的な解決を求めているという姿勢と言えます。

第二に、王外相の発言は、南シナ海問題に関する国際司法裁判所(PCA)の判決を無視しています。2016年7月にPCAは、フィリピンが提起した中国との領有権争いに関する裁判で判決を下しました。この判決では、中国の「九段線」は国際法上無効であり、中国が主張する人工島や岩礁などは領土や排他的経済水域EEZ)を持たないという内容でした。この判決は、PCAが国連海洋法条約(UNCLOS)に基づいて下したものであり、すべての加盟国はそれに従う義務があります。しかし、中国はこの判決を拒否し、実効支配を強化することで事実上無視しています。米国はこの判決を支持し、中国に従うよう促しています。これは、米国が「黒幕」として法治や秩序を破壊しているというよりは、法治や秩序を守ろうとしているという姿勢と言えます。

第三に、王外相の発言は、南シナ海問題に関する地域の取り組みを無視しています。南シナ海問題は、関係国や地域の安全保障や協力に大きな影響を及ぼすものであり、多くの国が対話や協議を通じて解決を図ろうとしています。例えば、東南アジア諸国連合ASEAN)と中国は、南シナ海での行動に関する行動規範(COC)の策定に向けて交渉を進めています。また、日本やオーストラリアなどの国も、南シナ海問題に関する意見交換や協力を行っています。米国もまた、地域の取り組みを支持し、自らも対話や協力に参加しています。これは、米国が「黒幕」として地域の和解や協力を妨害しているというよりは、地域の和解や協力を促進しようとしているという姿勢と言えます。

以上のように、王外相の発言は、南シナ海問題に関する事実や国際法や地域の取り組みなどを無視したものであり、不当であると言わざるを得ません。南シナ海問題は、中国だけでなく多くの国が関係する複雑で重要な問題です。そのためには、すべての関係国が対話や協議を通じて平和的に解決することが必要です。そのためにも、王外相は自らの発言を撤回し、米国や他の関係国と建設的な関係を築くことが望まれます。