富裕層の申告漏れ980億円過去最高、海外投資が要因

富裕層の申告漏れ980億円過去最高国税庁について

 

富裕層の申告漏れ980億円、過去最高を更新

国税庁は2023年11月22日、2022事務年度(2023年6月までの1年間)に実施した個人への税務調査状況を発表した。その結果、一定以上の資産や所得がある富裕層の申告漏れ所得が980億円に上り、過去最高を更新したことが分かった。

申告漏れ所得の構成比は、海外投資が52.4%と最も多く、次いで不動産投資が29.3%、事業所得が18.3%となった。


海外投資による申告漏れが増えた要因として、国税庁は以下の3点を挙げている。

  • 円安基調による為替差益の増加
  • 海外投資の多様化
  • 国税務当局との連携強化

円安基調により、海外投資で利益を得た富裕層が増加した。また、海外投資の対象も従来の株式や債券から、不動産や暗号資産など多様化しており、申告漏れのリスクが高まっている。さらに、国税庁は2018年から外国税務当局との間で、共通報告基準(CRS)に基づく金融口座情報の交換を開始しており、海外投資に関する情報収集が容易になったことも要因として考えられる。

追徴税額は183億円で、前年比23.1%減となった。これは、海外投資による申告漏れが増えた一方で、比較的税率が低い金融所得の割合が大きかったことが影響したとみられる。

富裕層の申告漏れ、社会問題化

富裕層の申告漏れは、社会問題化している。申告漏れは、税負担の公平性を損なうだけでなく、社会保障制度の財源にも影響を与える。

国税庁は、富裕層の申告漏れへの対策として、以下の取り組みを強化している。

  • 海外投資に関する情報収集の強化
  • 富裕層を対象とした税務調査の強化
  • 申告漏れに対する罰則の強化

しかし、これらの対策だけでは、富裕層の申告漏れを完全に防ぐことは難しい。富裕層の申告漏れに対する国民の意識を高め、納税の公平性を確保していくことが重要である。

申告漏れ防止に向けた課題

富裕層の申告漏れ防止に向け、以下の課題が指摘されている。

  • 海外投資に関する情報収集の強化

海外投資に関する情報収集を強化するためには、CRS制度のさらなる普及が重要である。また、CRS制度に基づく情報交換の対象を拡大することも検討課題である。

  • 富裕層を対象とした税務調査の強化

富裕層を対象とした税務調査を強化するためには、税務職員の専門性や調査能力の向上が求められる。また、税務調査の対象者を拡大することも検討課題である。

  • 申告漏れに対する罰則の強化

申告漏れに対する罰則を強化するためには、刑事罰の対象となる金額の上限を引き上げるなどの検討が必要である。また、行政罰の額を現実的な水準に引き上げることも検討課題である。

これらの課題を解決し、富裕層の申告漏れを防止していくことが、社会正義の実現や税収の確保につながる

今後の展望

国税庁は、富裕層の申告漏れ防止に向け、引き続き取り組みを強化していく方針である。CRS制度のさらなる普及や、富裕層を対象とした税務調査の強化などを通じて、申告漏れを減少させていくと見込まれる。

しかし、富裕層の申告漏れは、国民の納税意識や、税務行政の信頼性にも影響を与える問題である。国税庁は、国民との対話を重ねながら、納税者の納得感を得られる対策を進めていくことが重要である。

CRS制度共通報告基準(Common Reporting Standard/CRS)
CRSは、外国の金融機関に保有する口座を利用した国際的な租税回避を防止するために、経済協力開発機構(OECD)が策定した、金融口座情報を自動交換する制度です。

CRS制度について

CRS制度とは、各国の金融機関が、その国の居住者や非居住者の金融口座に関する情報を、相手国の税務当局と自動的に交換する制度です。

CRS制度は、2014年にOECD経済協力開発機構)が策定し、2018年から世界各国で導入が開始されました。日本も2018年からCRS制度を導入しており、現在では、約100カ国とCRSに基づく情報交換を行っています。

CRS制度の導入により、各国の税務当局は、海外に口座を持つ国内居住者の金融口座情報を入手できるようになりました。これにより、海外投資に関する申告漏れを防止する効果が期待されています。

CRS制度のさらなる普及とは、CRS制度に参加する国や地域を拡大することです。CRS制度に参加する国や地域が増えれば、海外投資に関する情報収集の範囲が拡大し、申告漏れの防止効果がより高まります。

CRS制度の普及に向け、OECDは、各国や地域の税務当局に対して、CRS制度への参加を呼びかけています。また、日本も、CRS制度への参加を促進するため、海外の税務当局と積極的に連携しています。

CRS制度の普及は、富裕層の申告漏れ防止に大きな効果をもたらすと考えられます。今後も、CRS制度のさらなる普及に向けた取り組みが重要となるでしょう。

具体的には、以下の取り組みが考えられます。

  • CRS制度への参加を促進するための国際的な協力を強化する
  • CRS制度の対象となる金融口座の範囲を拡大する
  • CRS制度に基づく情報交換の頻度を高める

CRS制度のさらなる普及により、海外投資に関する情報収集がより容易になり、富裕層の申告漏れを防止する効果がさらに高まることが期待されます。