風評被害処理水について
福島第一原子力発電所の事故から11年が経過した。事故によって発生した汚染水は、多核種除去設備（ALPS）によってトリチウム以外の放射性物質が除去された後、現在約134万トンがタンクに保管されている。
この処理水をどう処分するかは、事故の収束に向けた重要な課題である。政府は、2023年春から2023年秋にかけて、処理水を海洋放出する予定を発表している。しかし、この方針に対し、漁業関係者や市民団体などから反対の声が根強く、風評被害の懸念も大きい。
風評被害とは、事実に基づかない噂や誤解によって、経済や社会に悪影響を及ぼす被害のことである。福島第一原発の事故後、福島県産の水産物や農作物に対する風評被害は深刻化している。処理水の海洋放出が開始されれば、さらに風評被害が拡大するのではないかとの懸念が高まっている。
政府は、風評被害対策として、以下の3つの柱を掲げている。
これらの対策は、風評被害を防止し、福島の復興を進めるために不可欠である。
- 国際機関や各国の協力を得て、処理水の安全性に関する情報を発信する
処理水の安全性に関する情報は、国際機関や各国の協力を得て、幅広く発信していく必要がある。IAEA（国際原子力機関）は、処理水の海洋放出に関する安全性評価を実施しており、2022年9月に包括報告書を公表した。この報告書では、処理水の海洋放出は、人体や海洋環境に重大な影響を与えることはないとの結論を導き出した。
政府は、IAEAの報告書を踏まえ、処理水の安全性に関する情報を、国際機関や各国に積極的に共有していく必要がある。また、国際会議やセミナーなどの機会を通じて、処理水の安全性をアピールしていくことも重要である。
水産物や農作物に対する放射性物質検査を強化し、安全性を証明することも、風評被害対策として重要である。政府は、水産庁や農林水産省などの関係省庁が連携して、放射性物質検査を強化している。また、食品衛生検査所や食品卸売業者など、民間も検査に協力している。
今後も、検査の精度と頻度をさらに高め、水産物や農作物が安全であることを、消費者に分かりやすく伝えていく必要がある。
- 風評被害を受けた事業者の支援を行う
風評被害を受けた事業者の支援を行うことも、重要な風評被害対策である。政府は、2022年4月に「風評被害対策交付金」を創設し、風評被害を受けた事業者に対して、販路開拓や広報活動などの支援を行っている。
今後も、風評被害の状況を踏まえ、必要な支援を継続していく必要がある。
政府は、風評被害対策として、上記の3つの柱を掲げ、具体的な取り組みを進めている。しかし、風評被害は根強いため、さらなる対策の強化が求められる。
以下に、風評被害対策のさらなる強化に向けた課題を挙げる。
- 情報発信の強化
国際機関や各国の協力を得て、処理水の安全性に関する情報を、より幅広く発信していく必要がある。また、一般の人々にも分かりやすいように、情報発信の内容や方法を工夫していく必要がある。
- 検査体制の強化
水産物や農作物に対する放射性物質検査を、より強力に実施していく必要がある。また、検査結果を、より迅速かつ分かりやすく公表していく必要がある。
- 支援の拡充
風評被害を受けた事業者に対する支援を、より拡充していく必要がある。また、支援の対象を、水産業や農業だけでなく、他の産業にも波及の必要がある。
だれが風評被害云々と言っているか？
処理水放出に反対している漁業関係者や市民団体は、主に福島県内に存在しています。
漁業関係者では、全国漁業協同組合連合会（全漁連）や福島県漁業協同組合連合会（福島県漁連）が、処理水放出に反対する声明を発表しています。全漁連は、2022年4月22日、福島県漁連は、2022年6月29日に、それぞれ反対の立場を表明しました。
市民団体では、福島県民の声を届ける会や福島県漁業関係者ネットワークが、処理水放出に反対する活動を行っています。福島県民の声を届ける会は、2022年7月20日に、東京電力本社前で反対デモを行いました。福島県漁業関係者ネットワークは、2022年8月20日に、福島県庁前で反対集会を開催しました。
また、処理水放出に反対する署名活動も各地で行われており、2022年8月22日時点で、全漁連が呼びかけた署名は、約25万人分の署名が集まっています。
具体的な反対の理由としては、以下のようなものが挙げられます。
政府は、処理水に含まれるトリチウムの濃度を希釈して、海洋放出しても人体や環境に影響を与えないと説明しています。しかし、漁業関係者や市民団体は、政府の説明を信じることができず、処理水放出に反対しています。
今後、政府は、漁業関係者や市民団体の理解を得るために、さらなる説明と対策を講じていく必要があります。
モニタリングは
放出された処理水が海洋環境に影響を与えることのモニタリングは、主に以下の3つの方法で実施されます。
- 海水のモニタリング
海水のモニタリングでは、トリチウムをはじめとする放射性物質の濃度を測定します。海水中のトリチウム濃度は、放出された処理水の量や海流の状況によって変動しますが、政府は、トリチウムの濃度が原子力規制委員会の定める基準値以下となるよう、放出量を制限しています。
- 魚介類のモニタリング
魚介類のモニタリングでは、トリチウムをはじめとする放射性物質の濃度を測定します。魚介類の体内に蓄積された放射性物質は、魚介類を食べた人間の体内にも蓄積される可能性があるため、モニタリングが重要です。
- 生態系のモニタリング
生態系のモニタリングでは、プランクトンや魚類、海藻などの生態系の変化を観察します。放出された処理水が海洋環境に悪影響を及ぼした場合、生態系に変化が生じる可能性があります。
具体的なモニタリング方法としては、以下のようなものが挙げられます。
モニタリングは、放出開始前から実施されており、今後も継続して実施されます。政府は、モニタリングの結果を公表し、国民の理解を得ていくことにしています。
また、モニタリングの精度を高めるために、以下の取り組みも行われています。
- 新たな測定技術の開発
- 国際機関との連携
政府は、放出された処理水が海洋環境に影響を与えないことを、科学的に証明することを目指しています。
