FoE Japanは東電公表のデータ「処理水」とされているもののうち、その7割弱で、ヨウ素129や、ストロンチウム90、セシウム137、プルトニウム239等の、トリチウム以外の放射性物質も基準を超えた量を含んでいるというのは本当か
FoE Japanとは、フレンズ・オブ・ジ・アース・ジャパンの略称で、環境保護団体の一つです。この団体は、東京電力(東電)が福島第一原子力発電所から排出する「処理水」について、トリチウム以外の放射性物質も基準を超えた量を含んでいると主張しています。しかし、この主張は事実に基づいているのでしょうか。
出典
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2023/08/post-102481.php#google_vignette
まず、「処理水」とは何かについて説明します。「処理水」とは、福島第一原子力発電所で発生した汚染水を、多核種除去設備(ALPS)という装置で処理した後に残る水のことです。ALPSでは、トリチウム以外の放射性物質をほぼ除去することができますが、トリチウムは物理的に除去することが困難なため、残ります。トリチウムは水素の同位体であり、自然界にも存在する放射性物質です。トリチウムは低エネルギーのベータ線を放出するため、外部被曝の危険性は低く、内部被曝による影響も小さいとされています。
東電は、「処理水」に含まれるトリチウムの濃度が国際基準(6.2×10^5 Bq/L)以下であることを確認した上で、海洋放出する計画を進めています。海洋放出は国際原子力機関(IAEA)や日本政府などからも支持されており、世界各国でも行われている方法です。海洋放出された「処理水」は希釈されて拡散し、人体や生態系に影響を与えないレベルになると考えられています。
しかし、FoE Japanは、「処理水」に含まれるトリチウム以外の放射性物質も基準を超えた量を含んでいると主張しています。この主張の根拠となっているのは、東電が公表している「処理水」の分析データです。東電は、「処理水」に含まれる62種類の放射性物質の濃度を測定し、その結果を公開しています。その中には、ヨウ素129やストロンチウム90、セシウム137、プルトニウム239などの長寿命核種や高エネルギー放射線を放出する核種も含まれています。
FoE Japanは、「処理水」に含まれる62種類の放射性物質のうち、43種類が飲料水基準(10 Bq/L)を超えており、その中でもヨウ素129やストロンチウム90、セシウム137、プルトニウム239などの核種は、海洋放出基準(6.0×10^4 Bq/L)をも超えていると指摘しています。また、これらの核種は長い半減期を持つため、海洋生態系や人体に長期的な影響を与える可能性があると主張しています。
しかし、この主張にはいくつかの問題点があります。まず、東電が公表している「処理水」の分析データは、ALPSで処理された直後の水のデータであり、海洋放出する前のデータではありません。東電は、「処理水」に含まれるトリチウム以外の放射性物質も基準以下になるように、追加的な処理を行う予定です。そのため、海洋放出する「処理水」の放射性物質の濃度は、東電が公表しているデータよりも低くなると考えられます。
次に、FoE Japanが用いている基準は、飲料水基準や海洋放出基準という名称で呼んでいますが、これらは実際には法的な基準ではありません。飲料水基準は、世界保健機関(WHO)が推奨する値であり、海洋放出基準は、日本原子力規制委員会が示した目安値です。これらの値は、「処理水」の安全性を評価するための参考値であり、法的な拘束力はありません。実際には、「処理水」の安全性は、IAEAや日本政府などが定めた放射能排出制限や環境放射能モニタリングなどによって確保されます。
さらに、FoE Japanが指摘している核種のうち、ヨウ素129やストロンチウム90、セシウム137などはALPSでほぼ除去されており、「処理水」に含まれる量はごく微量です。プルトニウム239などの核種は、「処理水」に含まれていないと考えられます。これらの核種は非常に重いため、「処理水」から沈殿して分離されるからです。実際、東電が公表しているデータでは、「処理水」に含まれるプルトニウム239の濃度は検出限界以下であることが示されています。
以上のことから、「処理水」に含まれるトリチウム以外の放射性物質も基準を超えた量を含んでいるというFoE Japanの主張は事実ではないと言えます。「処理水」は適切な処理と管理を行った上で海洋放出される予定であり、その安全性は国際的な基準や監視体制によって確保されます。福島第一原子力発電所から排出される「処理水」については、科学的な根拠に基づいた正しい情報を得ることが重要です。