希望退職募集大手企業続出のワケについて
希望退職募集大手企業続出のワケ
近年、日本経済は好調な動きを見せているにもかかわらず、**大企業を中心に希望退職・早期退職の募集が続出**しています。一見矛盾しているように思えますが、その背景には様々な要因が複雑に絡み合っています。
本稿では、希望退職・早期退職募集大手企業続出の5つの主要な理由を詳しく解説し、さらに深く理解するために役立つ参考情報も紹介していきます。
早期・希望退職を募集する大手企業続出、3年ぶりに1万人超の可能性…黒字のうちに構造改革か (読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース
目次
1. 人口減少と高齢化による労働力人口の減少
2. 事業環境の変化への対応
3. 業務効率の向上
4. 年金制度改革への対応
5. コロナ禍の影響
6. まとめ
希望退職募集大手企業続出のワケ:詳細解説
1. 人口減少と高齢化による労働力人口の減少
日本社会は、深刻な人口減少と高齢化に直面しています。厚生労働省によると、2023年の総人口は1億2477万人、65歳以上の高齢者は3617万人と、過去最多を更新しました。この傾向は今後も続き、2050年には総人口が1億人を下回り、高齢者は3900万人を超えると予測されています。
労働力人口の減少は、企業にとって死活問題です。人手不足になると、生産性低下や業務効率の悪化を招き、業績悪化にもつながりかねません。
そこで、企業は希望退職・早期退職を募集することで、人件費を削減し、人員の適正化を図ろうとしているのです。
具体的な事例
オムロン:2023年3月期決算で過去最高益を達成した一方、構造改革の一環として国内外で計1200人の希望退職を募集。
ソニーグループ:2024年3月期に国内外で計5000人の希望退職を募集。人員削減と新規事業への投資を同時に進める。
2. 事業環境の変化への対応
近年、デジタル技術の進歩やグローバル化など、事業環境は大きく変化しています。企業はこうした変化に対応するため、事業の再構築や新規事業への参入を進めています。
しかし、事業再構築や新規事業参入には、新しいスキルや経験を持った人材が必要となります。そこで、企業は希望退職・早期退職を募集することで、古い体質の社員を減らし、新しい人材を採用しやすくしようとしているのです。
具体的な事例
東芝:2024年5月に発表した中期経営計画で、エネルギーシステム事業を中心とした事業再構築を進め、最大4000人の希望退職を募集。
富士フイルム:写真フィルム事業の縮小に伴い、国内外で計500人の希望退職を募集。医療機器事業やバイオ事業への投資を拡大。
3. 業務効率の向上
近年、企業は業務効率の向上に力を入れています。ITツールの導入や業務プロセスの改革など、様々な取り組みが進められています。
しかし、業務効率を向上させるためには、古い慣習や考え方にとらわれている社員よりも、新しいことに挑戦できる柔軟な人材の方が適しています。そこで、企業は希望退職・早期退職を募集することで、こうした社員を減らし、より効率的な組織作りを目指そうとしているのです。
具体的な事例
日本郵政:2024年2月に発表した中期経営計画で、デジタル化推進の一環として、全国の郵便局員約4万人のうち、希望退職制度を活用して約1万人を削減。
三菱UFJ銀行:店舗の統廃合を進め、2023年度末までに約500人の希望退職を募集。デジタル人材の育成にも力を入れる。
4. 年金制度改革への対応
2016年から段階的に導入されている年金制度改革は、企業にとっても大きな影響を与えています。年金支給開始年齢が引き上げられたことで、企業は高齢者の雇用を継続しやすくなりました。
しかし、一方で、企業は年金保険料の負担も増加しています。
従来、企業は60歳で退職する社員に対して、退職後も年金保険料を支払い続ける必要がありました。しかし、年金支給開始年齢が引き上げられたことで、企業が年金保険料を支払う期間が短くなります。
そこで、企業は希望退職・早期退職を募集することで、年金保険料の負担を軽減しようとしているのです。
具体的な事例
セブン&アイ・ホールディングス:2023年9月に発表した中期経営計画で、高齢者の雇用継続を積極的に進めつつ、希望退職制度を活用して、人件費と年金保険料の負担を削減する。
イオン:2024年2月に発表した中期経営計画で、高齢者の活躍推進と希望退職制度の活用を組み合わせ、人材の適正配置と年金保険料の削減を図る。
年金制度改革の影響は、企業によって様々です。
人手不足が深刻な企業にとっては、高齢者の雇用継続が重要となります。一方、人件費削減を優先する企業にとっては、希望退職・早期退職制度の活用が有効となります。
企業は、自社の状況に合わせて、年金制度改革に対応していくことが重要です。
参考情報
5. コロナ禍の影響
新型コロナウイルスの感染拡大は、多くの企業に大きな打撃を与えました。特に、観光業や飲食業などの業種は大きな打撃を受け、人員削減を余儀なくされました。
また、コロナ禍を契機に、働き方の見直しが進んでいます。テレワークやリモートワークが普及し、オフィス勤務の必要性が減少しています。
そこで、企業は希望退職・早期退職を募集することで、
オフィススペースを削減
人件費を抑制
しようとしているのです。
具体的な事例
ANAホールディングス:2023年3月期決算で過去最大赤字を計上。国内外で計5000人の希望退職を募集。
JALグループ:2024年3月期に国内外で計3500人の希望退職を募集。早期希望退職者に最大3000万円の特別加算金を支給。
コロナ禍の影響は、企業によって様々です。
業績悪化に苦しむ企業にとっては、人件費削減が重要となります。一方、テレワークやリモートワークを積極的に導入する企業にとっては、オフィススペースの削減が有効となります。
企業は、自社の状況に合わせて、コロナ禍の影響に対応していくことが重要です。
参考情報
厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の影響を受けた労働者及び事業主への支援」
ジェイアール東日本「新型コロナウイルス感染症の影響を受けた方への支援」
6. まとめ
以上のように、希望退職・早期退職募集大手企業続出の背景には、人口減少と高齢化、事業環境の変化、業務効率の向上、年金制度改革、コロナ禍の影響など、様々な要因が複合的に絡み合っています。
これらの要因は、今後さらに加速していくことが予想されます。企業はこうした変化に柔軟に対応していくために、希望退職・早期退職制度をどのように活用していくべきなのかが問われています。
今後の展望
AIやロボットなどの技術革新が進展し、労働市場の環境はさらに変化していくことが予想されます。企業はこうした変化に柔軟に対応していくために、以下のような取り組みが重要となります。
新たな成長分野への投資
デジタル人材の育成
柔軟な働き方の推進
多様な人材の活用
希望退職・早期退職制度は、こうした取り組みを推進するための有効な手段の一つとなり得ます。しかし、制度を悪用することなく、企業と社員双方の視点から持続可能な制度のあり方を模索していくことが重要です。
本稿が、希望退職・早期退職募集大手企業続出の背景を理解する一助となれば幸いです。
参考情報
厚生労働省「労働力調査」https://www.mhlw.go.jp/index.html
日本経済新聞「大企業の希望退職、23年1万人を超える見込み」https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63882260V10C20A9EE8000/
読売新聞「大企業 黒字でも退職募集が続出」https://news.yahoo.co.jp/articles/d09967ed99f9be24395b07aa2285357607cf7367
総務省「令和5年1月1日現在の日本の人口」https://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.html
その他
希望退職・早期退職制度に関する情報は以下のサイトでも入手できます。
厚生労働省「希望退職・早期退職制度」https://www.mhlw.go.jp/index.html
日本経団連「希望退職・早期退職制度に関する提言」https://www.keidanren.or.jp/en/
本稿は、2024年5月19日時点の情報に基づいています。