【日本の空に沈む夢?】日本企業がジェット旅客機を作れない4つの理由

日本企業がジェット旅客機を作れない理由について

 

日本企業がジェット旅客機を作れない理由

もくじ
1. はじめに

2. 技術・市場・競争環境:三重苦が立ちはだかる
 2.1. 市場規模の小ささ:採算性の壁

 2.2. リスクの高さ:巨額投資と失敗の恐怖

 2.3. 国際競争の激化:欧米中企業の猛追

3. 技術基盤と経営環境:追い風を欠く現状
 3.1. 技術基盤の弱さ:新素材・AI分野での遅れ

 3.2. 経営環境の変化:多角化による航空機事業の優先順位低下

4. 政府支援と官民連携:課題と展望
 4.1. 政府支援の不足:財政健全化優先で航空機産業への支援は限定的

 4.2. 官民連携の弱さ:連携不十分で開発停滞の恐れ

5. その他の課題:人材不足、安全基準、国民理解
 5.1. 人材不足:高度な専門知識を持つ人材の確保が困難

 5.2. 安全基準の厳格化:開発コストと時間が増加

 5.3. 国民の理解不足:巨額投資への理解と支持が得られにくい

6. 終わりに:復活への道筋を探る

 

日本企業がジェット旅客機を作れない理由:現状と課題

1. はじめに

かつて、日本はYS-11という傑作のターボプロップ旅客機を生み出し、航空機産業において世界を牽引する存在でした。しかし、近年はジェット旅客機の開発・製造から撤退し、欧米や中国勢に大きく水をあけられています。

この背景には、技術的な要因だけでなく、市場規模の小ささ、国際競争の激化、政府支援の不足、人材不足など、様々な複合的な理由が絡み合っています。

本稿では、日本企業がジェット旅客機を作れない現状と課題を多角的に考察し、復活への道筋を探っていくことを目的としています。

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2. 技術・市場・競争環境:三重苦が立ちはだかる

 2.1. 市場規模の小ささ:採算性の壁

国内航空市場は、欧米や中国と比較すると規模が小さく、旅客機開発に必要な巨額の投資に見合う収益を上げることが難しい状況です。

具体的には、欧米市場は約3兆ドル、中国市場は約1兆ドル規模なのに対し、日本市場は約3000億ドル規模と、1桁以上小さい規模となっています。

この市場規模の小ささは、開発リスクを許容できない企業にとって大きな障壁となります。旅客機開発は技術難易度が高く、莫大な資金と時間がかかる上に、失敗すれば巨額の損失を被るリスクが伴います。

市場規模が小さいということは、開発した旅客機を販売できる顧客数が限られることを意味します。そのため、開発費用を回収するためには、高価格帯の旅客機を開発する必要があります。しかし、高価格帯の旅客機は競争が激しく、市場シェアを獲得することが難しいという課題もあります。

このように、市場規模の小ささは、日本企業がジェット旅客機の開発・製造から撤退せざるを得ない理由の一つとなっています。

 2.2. リスクの高さ:巨額投資と失敗の恐怖

旅客機開発は、技術難易度が高く、莫大な資金と時間がかかる上に、失敗すれば巨額の損失を被るリスクが伴います。

近年では、ボーイング787エアバスA380のような大型旅客機の開発計画が巨額の赤字を出したケースもあり、企業にとって参入障壁が高くなっています。

具体的には、以下のようなリスクが挙げられます。

技術開発のリスク: 想定以上の時間がかかり、コストが膨らむ可能性があります。
市場環境の変化: 開発中に市場環境が変化し、需要が減退する可能性があります。
競争激化: 欧米や中国の企業との競争が激化し、市場シェアを奪われる可能性があります。
安全性の問題: 万が一事故が発生した場合、企業の存続に関わるような損害賠償責任を負う可能性があります。

これらのリスクを考慮すると、日本企業にとって、巨額の投資を伴う旅客機開発事業は極めてリスクの高い事業と言えるでしょう。

 2.3. 国際競争の激化:欧米中企業の猛追

近年、航空機市場は欧米や中国の企業が政府支援を受けながら積極的に参入し、競争が激化しています。

欧米企業は、ボーイングエアバスといった巨大企業を中心に、長年にわたって技術と資金力を蓄積してきました。近年では、大型旅客機787やA380の開発にも成功し、市場シェアを大きく拡大しています。

一方、中国企業も近年急速に成長を遂げており、COMAC C919やARJ21といった国産旅客機の開発を進めています。政府による強力な支援を受け、欧米企業に迫る勢いです。

こうした状況下で、日本企業は技術や資金面で劣勢に立たされており、単独での開発は非常に困難な状況と言えます。

具体例
ボーイング787:開発費1兆円超えの大型旅客機。燃費性能や快適性に優れ、世界中でヒットを飛ばしている。
エアバスA380:世界最大の双発旅客機。2階建て構造で最大853人を乗せることができ、長距離路線を中心に運航されている。
COMAC C919:中国初の国産旅客機。エアバスA320とライバル関係にあり、中国国内市場を中心にシェア拡大を狙う。
ARJ21:中国商用飛機有限責任公司(COMAC)と上海航空が共同開発した小型旅客機。100席未満の短距離路線向けに開発された。

欧米中企業は、政府支援を受けながら積極的に新技術の開発や投資を行っており、日本企業はこうした競争環境の中で生き残っていくために、新たな戦略を立てる必要があります。

3. 技術基盤と経営環境:追い風を欠く現状

 3.1. 技術基盤の弱さ:新素材・AI分野での遅れ

近年、航空機製造には炭素繊維複合材などの新素材や、人工知能などの先端技術が不可欠となっています。しかし、日本企業はこうした分野での技術基盤が弱く、欧米企業との競争力不足が指摘されています。

炭素繊維複合材

炭素繊維複合材は、軽量かつ高強度な素材として、航空機の機体やエンジンなどに広く使用されています。欧米企業は、炭素繊維複合材の研究開発に積極的に投資し、高い技術力を有しています。一方、日本企業は研究開発への投資が不足しており、技術力では欧米企業に大きく水をあけられています。

人工知能

人工知能は、航空機設計や製造工程の効率化、故障予知など、様々な分野で活用されています。欧米企業は、AI技術を活用した航空機開発を積極的に推進しており、すでに成果を上げています。一方、日本企業はAI技術の導入が遅れており、欧米企業との競争力不足が顕著です。

技術基盤強化の重要性

こうした技術基盤の弱さは、日本企業がジェット旅客機の開発・製造で欧米企業に太刀打ちできない大きな要因となっています。日本企業が再びジェット旅客機開発・製造に参入するためには、炭素繊維複合材やAIなどの先端技術分野での技術基盤を強化することが不可欠です。

政府による支援

政府は、日本企業の技術基盤強化を支援するため、研究開発への助成金などの支援策を講じる必要があります。また、産学官連携を推進し、企業による技術開発を促進することも重要です。

企業の努力

企業自身も、研究開発への投資を積極的に行う必要があります。また、海外の大学や研究機関と連携し、技術開発を進めることも有効です。

技術基盤の強化は、日本企業がジェット旅客機の開発・製造で再び競争力を持つための重要な課題です。政府と企業が協力して取り組むことで、日本製ジェット旅客機の復活を実現することが期待されます。

 3.2. 経営環境の変化:多角化による航空機事業の優先順位低下

かつて、日本の航空機産業を支えてきた三菱重工川崎重工などの大企業は、近年、経営環境の変化の中で多角化を進めています。

具体的には、エネルギー事業、鉄道車両事業、建設事業など、航空機事業以外の分野への投資を拡大しています。

こうした多角化は、企業の収益基盤を強化し、経営の安定化に貢献しています。しかし、一方で、航空機事業への投資が抑制され、事業規模が縮小しているという側面も否定できません。

特に、三菱重工は2020年に航空機事業を子会社化し、川崎重工も航空宇宙事業部門の再編を進めています。

これらの動きは、航空機事業がこれらの企業にとって、かつてほど重要な事業ではなくなっていることを示唆していると言えるでしょう。

もちろん、これらの企業は今後も航空機事業を継続していく方針を示していますが、多角化の影響により、航空機事業への優先順位が低下していることは明らかです。

この状況は、日本企業がジェット旅客機開発・製造に参入していく上で、大きな課題となります。

巨額の投資が必要となる旅客機開発事業は、企業にとって経営の大きなリスクとなります。そのため、航空機事業への優先順位が低い企業は、参入に消極的な姿勢を示す可能性が高いでしょう。

今後、日本企業が再びジェット旅客機開発・製造に参入していくためには、航空機事業への優先順位をどのように高めていくかが重要な課題となるでしょう。

4. 政府支援と官民連携:課題と展望

 4.1. 政府支援の不足:財政健全化優先で航空機産業への支援は限定的

欧米各国政府は、自国の航空機産業を育成するため、様々な支援策を実施しています。例えば、研究開発への補助金や税制優遇措置、政府系金融機関による融資などがあります。

一方、日本の政府は、財政健全化などの観点から、航空機産業への支援に消極的な姿勢を見せています。近年では、2018年に航空機開発支援事業が終了し、新たな支援策は打ち出されていません。

政府の支援不足は、日本企業にとって大きなハンデとなります。欧米企業は政府支援を受けることで、開発リスクを軽減し、最新技術の導入を加速することができます。一方、日本企業は自らの資金で開発を進めなければならず、リスクが大きく、技術革新のスピードも遅れてしまいます。

政府による支援強化は、日本企業の競争力向上と、国内航空機産業の活性化にとって不可欠です。政府は、財政健全化とのバランスを考慮しながら、航空機産業への支援策を検討していく必要があります。

 4.2. 官民連携の弱さ:連携不十分で開発停滞の恐れ

欧米諸国では、政府と民間企業が緊密に連携して航空機開発を進めています。一方、日本では官民連携がうまく機能しておらず、開発プロジェクトが停滞してしまうケースも少なくありません。

官民連携の弱さの具体例

開発目標やスケジュールに関する意見調整がうまくいかず、プロジェクトが遅延してしまう。
政府による財政支援が十分ではなく、民間企業の投資意欲が低下してしまう。
官民間の人材交流が活発ではなく、技術や情報共有が滞ってしまう。

官民連携を強化するための課題

政府と民間企業が共通の目標を設定し、密接に連携できる体制を構築する必要がある。
政府は財政支援だけでなく、規制緩和や制度改革などを通じて、民間企業の参入を促進する必要がある。
官民間の人材交流を活発化し、技術や情報共有を促進する必要がある。

官民連携強化の重要性

日本企業が再びジェット旅客機の開発・製造に参入するためには、官民連携を強化し、開発プロジェクトを円滑に進めることが不可欠です。政府と民間企業が力を合わせ、協力体制を構築することで、日本製ジェット旅客機の復活に向けた道筋を探っていくことが重要です。

5. その他の課題:人材不足、安全基準、国民理解

 5.1. 人材不足:高度な専門知識を持つ人材の確保が困難

航空機開発には、設計、製造、試験、整備など、高度な専門知識と技能を持つ人材が必要不可欠です。しかし、近年は少子高齢化労働人口減少の影響を受け、こうした人材の確保が困難な状況に陥っています。

特に、次のような分野の人材不足が深刻化しています。

構造設計:航空機の機体構造を設計する専門家
エンジン設計:航空機用エンジンを設計する専門家
システム設計:航空機の電気・電子システムを設計する専門家
製造技術:航空機部品を製造するための高度な技術を持つ職人
品質管理:航空機の安全性と信頼性を担保するための品質管理技術者
試験・整備:航空機の飛行試験や整備を行う専門家

これらの分野の人材不足は、開発スケジュール遅延やコスト増加、品質問題などのリスクを招き、日本企業の競争力を低下させる要因となっています。

人材不足を解消するためには、以下のような対策が考えられます。

大学・専門学校での教育強化:航空機開発に必要な専門知識と技能を習得できる教育プログラムを充実させる
企業内研修の充実:入社後のOJTや専門研修を充実させ、必要な知識と技能を習得できる環境を整える
海外人材の受け入れ:海外の大学や専門学校で学んだ人材や、海外企業で経験を積んだ人材を積極的に受け入れる
官民連携による取り組み:政府、企業、教育機関が連携して、人材育成プログラムの開発や実施を行う

関係各所が協力し、人材不足という課題を克服していくことが、日本企業がジェット旅客機開発・製造事業で再び競争力を発揮していくために不可欠です。

 5.2. 安全基準の厳格化:開発コストと時間が増加

近年、航空機の安全性を高めるため、安全基準は厳格化されています。具体的には、耐火性や耐衝撃性、飛行制御システムなどの性能向上などが求められており、これにより、開発コストと時間が大幅に増加しています。

例えば、ボーイング787では、従来よりも強固な炭素繊維複合材を使用したり、新たな飛行制御システムを導入したりすることで、安全性を大幅に向上させています。しかし、これらの開発には巨額の費用と時間がかかり、プロジェクトが遅延したり、コストが膨らんだりするケースも少なくありません。

日本企業にとっても、こうした安全基準の厳格化は大きな負担となっています。特に、欧米企業と比較して財務基盤が弱い日本企業にとっては、巨額の開発コストを負担することが難しく、競争力低下につながる可能性があります。

安全基準の厳格化は、航空機の安全性向上にとって不可欠なものです。しかし、一方で、開発コストと時間の増加という課題も生み出しています。日本企業が今後もジェット旅客機開発・製造に参入していくためには、こうした課題を克服し、安全性を確保しながらも効率的な開発体制を構築していくことが重要です。

 5.3. 国民の理解不足:巨額投資への理解と支持が得られにくい

巨額の投資が必要となる旅客機開発事業は、国民の理解と支持が不可欠です。しかし、日本では航空機産業に対する国民の関心や理解が低いため、事業推進への壁となっています。

具体的には、以下のような課題が挙げられます。

航空機産業への関心の低さ: 多くの国民にとって、航空機産業は身近な存在ではなく、その重要性や必要性に対する理解が不足しています。
巨額投資への懸念: 旅客機開発には莫大な資金が必要であり、国民の中には、その投資に見合う成果が得られるのか、あるいは失敗した場合に多額の国費が無駄になるのではないかという懸念を抱く人も少なくありません。
安全性の不安: 近年、航空機事故が相次いで発生しており、国民の中には、安全性に対する不安を抱く人も少なくありません。こうした不安は、旅客機開発事業への理解と支持を妨げる要因となっています。

これらの課題を克服するためには、政府や航空機メーカーは、国民に対して航空機産業の重要性や必要性を分かりやすく説明し、旅客機開発事業の進捗状況や安全対策などを積極的に情報発信していくことが重要です。また、国民の意見を積極的に聞き取り、事業への理解と支持を得られるよう努める必要があります。

さらに、教育機関やメディアとの連携を通じて、航空機産業に関する知識や理解を広めていくことも有効です。国民一人ひとりが航空機産業の重要性を理解し、その発展を支える意識を持つことが、日本企業が再びジェット旅客機開発・製造に参入していくための重要な鍵となるでしょう。

6. 終わりに:復活への道筋を探る

かつてYS-11という傑作旅客機を生み出した日本が、再び空の舞台で躍動することは可能なのだろうか?

現状は厳しい。技術・市場・競争環境、そして経営環境など、様々な課題が山積している。しかし、決して諦めるわけにはいかない。

小型ビジネスジェット開発など、新たな動きも見られる中、関係各所が力を合わせ、日本製ジェット旅客機の復活に向けた道筋を探っていくことが重要だ。

政府は、財政健全化の壁を乗り越え、欧米各国と同等の支援体制を構築する必要がある。官民連携も不可欠だ。官と民が一体となり、共通の目標に向かって歩んでいかなければ、復活への道は開けないだろう。

そして忘れてはならないのが、人材育成だ。高度な専門知識を持つ人材を育成し、日本企業の技術力を底上げすることが、競争力強化の鍵となる。

安全基準への適応も重要だ。厳格化する基準に対応し、安全性の高い旅客機を開発することが求められる。

最後に、国民の理解と支持が不可欠だ。巨額投資への理解を得るためには、国民に航空機産業の重要性を訴え、共に歩んでいく必要がある。

課題は多い。しかし、関係者一人一人の努力と、そして日本の底力があれば、必ず道は拓けるはずだ。

空の覇権奪回へ、挑戦は始まっている。