人工光合成でエネルギーを作る!原理や方法、利点や課題を解説

人工光合成について


人工光合成とは、太陽光を利用して二酸化炭素や水を分解し、水素や有機物を生成する技術のことです。自然界では、植物や藻類が光合成を行っていますが、人工光合成では、人工的に作られた触媒や電極などを用いて、より効率的にエネルギー変換を行うことができます。人工光合成は、化石燃料に依存しないクリーンなエネルギー源として期待されており、気候変動やエネルギー問題の解決に貢献する可能性があります。

 


人工光合成の研究は、世界各国で進められていますが、日本もその中心的な役割を担っています。日本では、科学技術振興機構JST)が主導する「人工光合成プロジェクト」が2012年から始まり、2021年までに約1000億円の予算を投入して、人工光合成の基礎から応用までの研究開発を推進してきました。このプロジェクトでは、国内外の約200の研究機関や企業が参加し、人工光合成の原理や材料、システム設計などの分野で多くの成果を挙げています。

人工光合成プロジェクトの目標は、2030年までに実用化に向けた技術開発を行うことです。具体的には、以下の3つの段階を経て、人工光合成システムの実証試験を行うことを目指しています。

- 第1段階(2012年~2016年):人工光合成の基礎科学と材料開発
- 第2段階(2017年~2021年):人工光合成システムの設計と試作
- 第3段階(2022年~2030年):人工光合成システムの実証試験と実用化

第1段階では、人工光合成の原理や反応機構を解明し、高性能な触媒や電極などの材料を開発しました。例えば、水素生成用の触媒として、金属錯体や有機分子などを用いたものや、二酸化炭素還元用の触媒として、金属酸化物や窒化物などを用いたものが開発されました。また、これらの触媒を効率的に利用するために、ナノ構造化や表面改質などの技術も開発されました。

第2段階では、これらの材料を組み合わせて、人工光合成システムの設計と試作を行いました。例えば、水素生成用のシステムとしては、太陽電池と水電解器を一体化したものや、半導体と触媒を直接接触させたものが試作されました。また、二酸化炭素還元用のシステムとしては、太陽電池と電気化学セルを一体化したものや、人工光合成と微生物を組み合わせたものが試作されました。

第3段階では、これらのシステムを実際の環境に適応させるために、安定性や耐久性などの改良を行い、実証試験を行う予定です。例えば、水素生成用のシステムでは、海水や廃水などの水質に対応できるようにすることや、高温や高圧などの条件に耐えられるようにすることが必要です。また、二酸化炭素還元用のシステムでは、大気中や排気ガス中の二酸化炭素を効率的に捕集できるようにすることや、有機物の選択性や収率を高めることが必要です。

人工光合成は、2030年までに実用化に向けた技術開発を目指していますが、それだけでは十分ではありません。人工光合成は、単なるエネルギー技術ではなく、社会や環境にも大きな影響を与える技術です。人工光合成が普及することで、エネルギー供給や温室効果ガス削減だけでなく、農業や工業などの産業構造やライフスタイルにも変化が起こる可能性があります。そのため、人工光合成の技術開発と同時に、人工光合成の社会的・経済的・倫理的な課題にも取り組む必要があります。

人工光合成は、2030年までに実用化に向けた技術開発を目指していますが、それはあくまで一つの目標です。人工光合成は、その先もさらに進化し続ける技術です。人工光合成は、自然界の光合成を模倣するだけでなく、自然界では起こらないような新しい反応や材料を生み出す可能性があります。人工光合成は、太陽エネルギーを利用する新しい科学分野として、未来への挑戦を続けていきます。

ちなみに

人工光合成プロジェクトの活動の進捗について

人工光合成プロジェクトとは、太陽光エネルギーを利用して水と二酸化炭素から有用な物質を合成する技術の研究開発を目指すプロジェクトです。このプロジェクトは、科学技術振興機構JST)が主導し、産官学連携で進められています   。

人工光合成の技術は、植物の光合成の仕組みに学び、触媒を使って水と二酸化炭素を反応させることで、水素やギ酸などの物質を作り出します。これらの物質は、燃料電池や化学原料として利用できます 。また、人工光合成は、温室効果ガスの排出を抑えるだけでなく、二酸化炭素を資源化することで、脱炭素社会の実現に貢献する可能性があります 。

人工光合成プロジェクトでは、現在、さまざまな種類の触媒の開発や大面積化、システムの設計などに取り組んでいます  。特に、豊田中央研究所が開発した半導体と分子触媒を用いた人工光合成の技術は、世界最高水準の変換効率7.2%を実現しました。この技術は、工場から排出される二酸化炭素を回収して資源化することも可能です。

人工光合成プロジェクトは、2050年に社会に普及していることを目指しています。そのためには、2030年ごろには有力な技術を絞り込み、2040年にはインフラの整備を始める必要があると考えられています。日本が先駆けて推進する「水素社会」への道を開く切り札になることが期待されています。