「企業年金の運用利回りマイナス」の原因と対策について

企業年金の運用利回りマイナスについて

 

企業年金とは、企業が従業員の退職後の生活を支えるために積み立てる年金制度のことです。企業年金は、厚生年金基金確定拠出年金などの種類がありますが、共通するのは、企業が運用する資産から年金を支払うという仕組みです。しかし、近年、企業年金の運用利回りがマイナスになるケースが増えています。運用利回りとは、運用した資産がどれだけ増えたか減ったかを表す指標で、マイナスになるということは、運用した資産が元本を割り込んでしまったということです。では、なぜ企業年金の運用利回りがマイナスになるのでしょうか。その原因と対策について見ていきましょう。

出典

https://www.pfa.or.jp/nenkin/nenkin_tsusan/nenkin_tsuusan01.html

 




企業年金の運用利回りがマイナスになる原因

企業年金の運用利回りがマイナスになる原因は、主に以下の3つです。

- 低金利環境
- 株式市場の下落
- 過剰なリスク回避

まず、金利環境とは、日本銀行が長期的にゼロ金利政策やマイナス金利政策を続けていることで、国債や預貯金などの安全資産の利回りが低下している状況です。企業年金は、安全資産を中心に運用することが多いため、低金利環境では運用収益が減少します。特に、厚生年金基金は法律で国債社債などの割合を定められており、自由度の低い運用を強いられています。また、低金利環境では、将来の年金支払い額を現在価値で計算する際にも不利になります。現在価値とは、将来受け取るお金を今受け取った場合に相当する価値のことで、現在価値を求める際には割引率と呼ばれる利率を使います。割引率が低いほど、現在価値は高くなります。つまり、低金利環境では、将来支払うべき年金額が現在価値で見ると大きくなってしまうのです。これは、企業年金の負債(支払うべき義務)が増加したことを意味します。

次に、株式市場の下落とは、新型コロナウイルス感染症の拡大や米中貿易戦争などの不安要素によって、世界的に株価が大幅に下落したことです。企業年金は、一部の資産を株式などのリスク資産に投資することで、高い利回りを狙っています。しかし、株式市場の下落では、リスク資産の価値が減少し、運用損失を招きます。特に、確定拠出年金は個人の選択によってリスク資産の割合が変わるため、株式市場の動向に大きく影響されます。

最後に、過剰なリスク回避とは、企業年金の運用者が、低金利環境や株式市場の下落に対応するために、安全資産に偏った運用を行うことです。企業年金の運用者は、年金支払いの安定性を確保するために、リスクを抑えることを優先します。しかし、安全資産に偏った運用では、運用利回りが低くなり、年金資産の増加が期待できません。また、リスク資産に投資しないことは、将来の高い利回りの機会を逃すことにもなります。つまり、過剰なリスク回避は、企業年金の運用効率を低下させることになります。

企業年金の運用利回りがマイナスになる対策

企業年金の運用利回りがマイナスになる対策は、主に以下の3つです。

- 適切な資産配分
- 長期的な視点
- ダイバーシフィケーション

まず、適切な資産配分とは、企業年金の目的や特性に応じて、安全資産とリスク資産のバランスを調整することです。企業年金は、長期的に安定した年金支払いを行うことが求められます。そのため、安全資産だけでなく、リスク資産も一定程度含める必要があります。リスク資産は短期的に価格変動が大きいですが、長期的には高い利回りを得られる可能性があります。また、リスク資産はインフレーション(物価上昇)に対するヘッジ(保険)としても機能します。インフレーションが起きると、安全資産の実質的な価値は減少しますが、リスク資産の価値は上昇する傾向があります。したがって、企業年金の運用者は、安全資産とリスク資産の割合を見直し、適切な資産配分を行うことが重要です。

次に、長期的な視点とは、企業年金の運用者が、短期的な市場の変動に惑わされずに、長期的な目標や方針に沿って運用することです。

企業年金は、数十年から数百年という長い時間軸で考える必要があります。そのため、短期的な市場の変動によって運用利回りがマイナスになったからといって慌てて売買する必要はありません。

むしろ、市場の下落時は買い増しのチャンスと捉えるべきです。

また、長期的な視点では、将来の社会や経済の変化に対応できるように柔軟性を持った運用を行うことが重要です。

例えば、気候変動や人口減少などの課題に対して、環境や社会に配慮した投資(ESG投資)を積極的に取り入れることが望ましいでしょう。

ESG投資は、単に倫理的な行動としてではなく、長期的なリスクや機会を見極める観点からも有効です。

企業年金の運用者は、自らの役割や責任を認識し、長期的な視点で運用を行うことで、将来の受給者のために安定した年金収入を確保することができます。

最後に、ダイバーシフィケーションとは、企業年金の運用資産を多様化することです。ダイバーシフィケーションは、運用リスクを分散させる効果があります。例えば、株式や債券だけでなく、不動産やインフラなどの実物資産や、ヘッジファンドプライベートエクイティなどの代替資産にも投資することで、市場の変動に対する影響を低減することができます。また、国内だけでなく、海外の資産にも投資することで、地域や通貨に依存しない運用を行うことができます。ダイバーシフィケーションは、運用利回りを安定させるだけでなく、運用効率を高める効果もあります。つまり、同じリスクレベルでより高い利回りを得られるか、あるいは同じ利回りレベルでより低いリスクを取れるということです。企業年金の運用者は、自らのリスク許容度や目標利回りに応じて、幅広い資産クラスや地域に分散投資することで、ダイバーシフィケーションのメリットを享受することができます。

 

以上の3つの対策を講じることで、企業年金の運用者は、運用利回りがマイナスになるリスクを低減し、長期的に安定した年金支払いを実現することができます。企業年金は、社会保障制度の補完的な役割を果たすだけでなく、企業の人材確保や従業員満足度向上にも貢献します。企業年金の運用者は、自らの使命感や誇りを持って、適切な運用管理を行うことが求められます。